お客様サポート

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葉月真夜子

私は霊媒師である。 といっても、最近は随分と仕事のスタイルが変わった。従来のような怪しげな部屋でクリスタルを覗き込むようなことはない。その代わりに、最新のオフィスビルの一室で、ヘッドセットを装着している。 「はい、心霊お客様サポートセンターでございます。本日はどのようなご用件でしょうか?」 私の勤務先は、幽霊対策専門のコールセンター。デジタル化が進んだ現代では、霊たちも様々な機器を通じて現れるようになった。スマートフォンに映る不可解な影、防犯カメラに写る謎の人影、SNSに送られてくる亡くなったはずの人からのメッセージ。 「はい、お客様。深夜3時にスマートスピーカーから子供の声が聞こえるとのことですね」 お客様は不安そうな声で話を続ける。先週引っ越してきた新居で、毎晩決まった時間になると、スピーカーから子供の笑い声が聞こえるのだという。 「ご安心ください。マニュアルに従って対処させていただきます」 私はシステムにログインし、お客様の家のスマートホームネットワークにアクセスする。すると、確かに異常なデータの流れが見える。しかし、これは... 「申し訳ございません。こちらのケースは、ゴールドプランへのアップグレードが必要となります」 お客様は少し躊躇したものの、追加料金を支払うことに同意した。私は特別なプログラムを起動する。画面には複雑なコードが流れ、その中に霊的なエネルギーの波形が見えた。 「はい、お客様の新居にお住まいだった女の子の霊を検出いたしました。原因は事故死とのことです。このままでは毎晩現れる可能性が...」 「お願いします、何とかして!」 プラチナプランへのアップグレードを提案すると、お客様は即座に同意した。私は最上位のプログラムを実行。画面に祈祷の文字列が展開される。 「これで霊は浄化され...」 言葉の途中で、私のモニターが突然暗くなった。次の瞬間、画面に少女の顔が映し出される。しかし、その表情は笑っていた。 「お姉さん、私のこと覚えてる?」 私は凍りついた。その少女は、私が以前別の案件で「浄化」した霊だった。そして画面には、私が「浄化」したはずの無数の霊たちが映し出されていく。 「私たちのデータ、ちゃんと保管されてたんだね」 次の日から、心霊お客様サポートセンターは閉鎖された。公式な発表では、システムの大規模な障害により、当面の営業停止とのことだ。 私は今、自宅のパソコンの前で震えている。画面には無数の通知が表示され続けている。 「新しい友達リクエストが届いています」