放課後の暗号

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竹中真司

私立桜華学園の図書室で、奇妙な事件が起きた。 図書委員長の佐藤美月が、閉室時間の午後6時に巡回していると、歴史の本棚の前で一枚の古びた手紙を見つけた。宛名も差出人も記されていないその手紙には、不可解な文字列が書かれていた。 「NGZB 317 HFSI 529 KQWP 846」 美月は図書室の管理日誌を確認した。過去1週間、歴史の本棚から本を借りた生徒は3人。2年A組の田中結衣、3年B組の山本健一、そして1年C組の井上拓也だ。 翌日、美月は3人に話を聞いた。結衣は歴史の宿題のために『江戸時代の暮らし』を借りただけだという。健一は卒業論文の資料として『明治維新の真実』を借りていた。拓也は特に理由もなく『世界の考古学』を手に取っただけだと話す。 一見、何の関係もない3人。しかし、美月は違和感を覚えた。図書カードを見直すと、3人が本を借りた時間がすべて放課後。しかも、15分おきだった。 「まるで、計画的に...」 美月は手紙の暗号を睨んだ。数字に注目すると、317、529、846。これらの数字には、何か意味があるはずだ。 図書室のコンピューターで検索すると、それぞれの数字は本の登録番号と一致した。317は『暗号解読の歴史』、529は『古文書の謎』、846は『失われた文明の記録』。 さらに、NGZBは「なぞ部」、HFSIは「はふり祭」、KQWPは「かくれんぼ」のローマ字表記を暗号化したものだった。 「なぞ部...はふり祭...かくれんぼ...」 突然、美月は理解した。来月の文化祭で、謎解き同好会が企画している「はふり祭かくれんぼ大会」。これは、その準備のための暗号だったのだ。 3人の生徒は、実は謎解き同好会のメンバーだった。文化祭で使う暗号のテストとして、図書室の本を使った謎解きを仕掛けていたのだ。 「でも、なぜ図書室で?」 答えは簡単だった。図書室には、暗号や古文書に関する専門書が揃っている。彼らは、本物の歴史的暗号を参考に、オリジナルの謎を作ろうとしていたのだ。 美月は安堵のため息をつきながら、手紙を元の場所に戻した。そして管理日誌に、さりげなく書き加えた。 「暗号、解読完了。文化祭、楽しみにしています」 次の日から、図書室には謎解き同好会の3人が頻繁に顔を出すようになった。彼らは美月に気付かれないよう、こっそり微笑んでいた。 図書室の本棚には、まだ誰も気付いていない新しい暗号が、静かに仕掛けられているのかもしれない。