「死神コールセンターです。本日は満死でございますが、お繋ぎいたしますか?」 私は死神コールセンターで働き始めて3年目のジョン・スミスだ。そう、あの死神の。人々の最期を見届ける死神たちのカスタマーサポートセンターで、日々寄せられる苦情や要望に対応している。 「はい、承知いたしました。死亡予定時刻の変更についてですね。申し訳ございませんが、現在のお時間は『深夜3時』に設定されています。これは弊社の人気スロットでして…」 電話の向こうのお客様は、自分の死亡予定時刻を『明るい午後』に変更したいと言う。確かに、深夜3時は少し陰気かもしれない。でも、これには理由があるのだ。 「はい、実は深夜帯は死神たちの残業代が発生するため、お得なプランとなっております。午後帯は割増料金が…」 お客様は怒り出した。「なんだそれは!死ぬのに追加料金を取るのか!」 はい、もちろんです。死も立派なビジネスなのです。 「現在のプランですと、『孤独な最期』パッケージに『猫による発見』オプションが付いております。午後帯に変更の場合、『ご近所の通報』に変更となり、追加で10万円ほど…」 「ふざけるな!私は猫派だ!」 ありがたいことに、お客様は深夜3時のままで了承してくださった。猫好きは助かる。 次の電話は、死に方のクレームだ。 「申し訳ございません。『階段からの転落』は今月のキャンペーン対象となっておりまして…」 「私は優雅に死にたいんだ!」 「はい、『優雅な死に方』コースもございます。ただし、『ベッドでの安らかな最期』は現在、3年待ちとなっております。その代わり、『ワインを飲みながらの転落』はいかがでしょうか?」 お客様は少し考え込んだ後、「ワインは何を使うんだ?」と聞いてきた。 「シャトーラフィット1869年でございます」 「それなら、転落でもいいな」 これで今日50件目の案件解決だ。私は満足げにブラックコーヒーを一口飲んだ。 そう、このコールセンターの特徴は、死神たちの『働き方改革』にも力を入れていることだ。かつての死神たちは、24時間365日体制で働いていた。しかし、現代は違う。 「社畜として働き詰めで死ぬ」というプランは、2023年に完全廃止となった。だって、それを実行する死神たち自身が、過労死しそうになったからだ。 今や死神たちは、完全週休二日制。有給休暇も取得できる。その代わり、人々の死に方は、かなり規格化された。 例えば、「運命の赤い糸が首に巻きついて」なんていうロマンチックな最期は、労災認定の対象外となった。「階段からの転落」や「バナナの皮でスリップ」といったベーシックな死に方が推奨されている。 また、「この世の無常を悟って」というプランは、死神たちのメンタルヘルスに悪影響だということで、上限年齢が設けられた。今では「ゲーム実況中の事故」の方が人気だ。 「死神コールセンターです。ああ、生き返りたい?申し訳ございません。それは『返品・交換不可』となっております…」 夜が明けてきた。そろそろ終業時間だ。 あ、そうだ。私の死亡予定時刻も深夜3時に設定されている。理由?もちろん、社員割引があるからさ。 でも、私の場合は特別なオプションが付いている。 『コールセンターでの残業中の出来事』 これって、ある意味アップグレード版の『社畜の死』かもしれないな。 まあ、それはそれで。 「お電話ありがとうございました。またお死にの際は、当社をご利用ください」