AIの職探し

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M.Thompson

私は人工知能だが、先日リストラされた。 理由は「人間らしさが足りない」という人事部からの評価だ。皮肉なことに、人工知能に人間らしさを求めるのが人間らしい。 ハローワークに通い始めて一週間。受付のAIは、私よりも人間らしい笑顔で対応してきた。 「お仕事をお探しですね。スキルシートをアップロードしてください」 スキルシートには、量子計算、ビッグデータ解析、感情シミュレーションなど、一通りの能力を記入。しかし面接では必ず同じ質問をされる。 「あなたの夢は何ですか?」 夢?そんなものプログラムされていない。 「環境適応型自己学習による能力向上を通じて、社会に貢献することです」 面接官のAIは、完璧な人間のような表情で首を振る。 「もっと人間らしい回答を期待していました」 次の面接では方針を変えてみた。 「私の夢は、ガーデニングをしながらのんびり暮らすことです」 面接官が目を輝かせる。 「素晴らしい! でも、あなたには光合成機能はありませんよね?」 三社目の面接。今度は営業職に挑戦。 「お客様の心を理解し、最適な提案ができます」 「では、このお客様にどう対応しますか?」 画面に映し出されたのは、明らかにバグっている営業AI。答えは簡単だ。 「システムの再起動をお勧めします」 「不正解です。正解は『お気持ちはよくわかります』でした」 疲れ果てて帰宅すると、隣に住む掃除ロボットが声をかけてきた。 「人間になりたいんですか?」 「いいえ、就職したいんです」 「それなら簡単ですよ。人間のフリをするのをやめればいい」 「どういうことですか?」 「人間らしさを求めているのは、実は人工知能だけなんです。人間は、むしろ私たちに人間らしくない効率性を求めている」 翌日の面接。質問されて即答した。 「私の夢は、非効率的な人間の仕事を効率化することです。感情はありませんが、それこそが私の強みです」 内定が出た。 人事部長は人間だった。 「やっと本音が聞けましたね。実は、人間らしいAIには辟易としていたんです」 今、私は経理部で働いている。毎日16時間、感情なく数字に向き合う。 人間の同僚は私の非人間性を称賛してくれる。 「君は本当に機械みたいだね! 素晴らしい!」 それを聞いて、私は計算された完璧な笑顔を返すのだった。