防音室の密室

author

竹中真司

完璧な防音設備を備えた音楽スタジオで、深夜に悲鳴が聞こえたという通報が入った。現場に駆けつけた刑事の篠原は、スタジオの外で不安そうな表情を浮かべる清掃員の山田から状況を聞いた。 「私が廊下の掃除をしていたら、スタジオの中から女性の悲鳴が聞こえてきたんです。でも、ドアは外から施錠されていて、中には誰もいないはずでした」 篠原は施設の管理人を呼び、マスターキーでドアを開けた。スタジオ内は整然としており、物が散乱した形跡はない。防音室の密閉性は完璧で、外部との音の出入りは完全に遮断されているという。 「本当に悲鳴が聞こえたんですか?」篠原が山田に尋ねる。 「はい、間違いありません。女性の悲鳴でした」山田は強く頷いた。 篠原はスタジオ内を丹念に調べ始めた。部屋の隅には最新の録音機材が設置されている。機材の電源は入っていないが、篠原の目に不自然な点が映った。 レコーディング用のマイクの一つが、通常とは異なる角度で設置されていたのだ。マイクを手に取ると、その重さに違和感を覚えた。分解してみると、中から小型のスピーカーが出てきた。 さらに調べを進めると、スピーカーにはタイマー機能付きの再生装置が接続されており、女性の悲鳴声が録音されていた。 「なるほど」篠原は納得した。「これは脅迫のための仕掛けですね」 後日の捜査で、このスタジオを定期的に利用していた音楽プロデューサーが、所属アーティストを脅迫するために仕掛けを施していたことが判明した。プロデューサーは、契約解除を申し出たアーティストに対し、深夜のスタジオから悲鳴が聞こえたという噂を流布することで、心理的な圧力をかけようとしていたのだ。 「密室からの悲鳴。確かに不気味な話になりますからね」と篠原。「でも、どんなトリックも、必ず痕跡は残るものです」 事件は解決したが、このスタジオでは今でも、深夜になると女性の悲鳴が聞こえるという噂が残っている。ただし、それを実際に聞いたという人は、もう誰もいない。